-第二部-
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通りが騒々しい。 いよいよ戦自の突入が始まったのだ。 結局、私は碇司令を暗殺しなかった。 好きな人の父親を手に掛けることなんてできない……。 ……… …… … 「その結果、大切な人たちを永遠に失うことになるわ」 心の中で誰かが呟く。 「いやっ!! そんなのは絶対にいや!!!」 もう一人の誰かが叫ぶ。 「ならば、なぜそこにいるの?」 落ち着いた声が問いかける。 「だって、私にはなにもできない……。シンジのお父さんを殺すことも、 戦自を止めることも……」 苦渋に満ちた声が言う。 「自分にできることをしなさい」 そう、私はまだ自分にできることを尽くしてはいない。 心の中のもう一人の自分の声に突き動かされて、急に勇気が湧いてくる。 … …… ……… ミサトさんの部屋に行き、拳銃とショルダーホルスターをつかみ取ると、 私は表に飛び出した。
ジオフロントのゲートはとっくに占拠されていて通れない。 私は加持さんのスイカ畑のある辺りからC-2通路に忍び込んだ。 迷路のようなネルフ本部の中を駆け回る。 恐怖と、激しい運動とで心臓が焼き切れそう。 通路をひたすら走り、兵士の姿を見ては身を隠す。 そして…… ついにシンジを見つけた! 数人の兵士に囲まれ、銃を向けられている!! 私は駆け寄りながら、ためらいなく兵士たちを射殺した。 「マナ……?」 「シンジ!」 そのまま、彼の胸へと飛び込む。 「よかった。生きてて……私、私…もう……」 張り詰めていた気持ちが一気に緩み、彼の腕の中で泣きじゃくってしまう。 「マナ……」 シンジは急に決然とした表情になり、私をしっかりと抱きしめてくれた。 「僕は行くよ。僕はエヴァに乗らなくちゃいけないんだ」 そう言って、彼はケージへと向かうエレベーターに乗り込んでいった。
何度か戦自の兵士と遭遇し、交戦しながら、なんとか発令所に辿り着く。 (一発被弾してしまった。盲管のようだ) 「マナちゃん!?」 ミサトさんは一瞬驚きの表情を見せたが、 血を流し、大きすぎる拳銃を手にした私の姿を見て全てを悟ったようだった。 「そう……ありがとう」 彼女はそう言うと、サッと正面スクリーンの方へ向き直り、 「いいわね、シンジ君・アスカ。エヴァシリーズは必ず殲滅するのよ!」 と、張りのある声で指示した。 何が起きているのか、私にはよく分からなかった。 ただ、ミサトさんやオペレーター達が叫ぶ内容から、S2機関を搭載した敵に対抗できるのは シンジの初号機だけだということ(この時まで私はシンジのは零号機だと思っていた)、 そして、敵殲滅に失敗すれば世界は破滅するのだということだけはおぼろげに理解できた。 「神様、お願い……。シンジとアスカを守って」 一心に祈りながら目を閉じると、ふと意識が遠のいていく。 そう言えば、私、撃たれたんだっけ。 でも、良かった。死ぬ前にシンジに抱きしめてもらえたし、 アスカが元気になったのも見た。 ……… …… …
「マナ…………」 !? 目の前にシンジが居る。なぜか一糸まとわぬ姿で。 「さあ、一つになろう…………」 「溶け合って一つになれば、二度と離ればなれにならずにすむ」 ああ、シンジとなら永遠に溶け合っていたい…… 「さあ、怖いのかい?」 後光が差して、まるで人間ではないようなシンジ。 両手を開いて、私を迎え入れようとする。 「待って!」 何かが違う気がする。これが私の好きなシンジ? 確かに、一つになれればどんなに素敵なことかと思う。 ずっとそれを夢見てきた…… でも……………… 何かが違う。何かこのままじゃいけない気がする。 「私、みんなと一つにはならないわ」 「私は私。あなたはあなた、よ。 人が個を失って全てが一つになるなんて私には耐えられない」 「そう。君は、君が君でいる世界、僕が僕でいる世界を望むんだね……」 シンジがそう呟くのを聞きながら、私は暗い闇へと落ちていった。