-第三部-
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お盆。 ミサトさんは国連軍事参謀委員会・日本代表の副官とは言っても、 目立った軍事紛争の無い今、「別命あるまで待機」とのことで、案外暇らしい。 と、いうわけで家の中でゴロゴロしている私たち三人娘………。 「うん、じゃ、夕方6時、鳥居の前でねっ」 さっきから、アスカは寝っ転がったままあちこちに電話をかけている。 「アスカ、どっか出かけるの?」 「何言ってるのよ、あなたも一緒に来るのよ、マナ」 「どこへ?」 「夏祭りへよ。お盆と言えば、盆踊りでしょ。マナ、浴衣持ってる?」 「へ? 持ってないよ」 「そっか。あたしも持ってないから、今から一緒に買いに行きましょ」 さすが、アスカ。行動力のある子だわ。それに、お盆と言えば盆踊り、って。 来日して日が浅いのに、一体どこでそんな知識仕入れてきたのやら。 「いいけど、私、着付けできないよ?」 私が言うと、 「ミサトがいるじゃない」 とアスカ。 「あたしもできないよ〜」 元気よく答えるミサトさん。 「……困ったわね。そうだ、試着してそのまま着て行っちゃえばいいのよ」 なるほど。
「ねぇ、誰が来るの?」 「ん? 誰に声かけたかってこと? えっとね、ヒカリとシンジとファースト。 それと、おまけで鈴原と相田も呼んじゃった」 ちゃんと綾波さんを呼んだのは感心感心。仲悪いのにね。 計画通り浴衣を買って着せてもらい、そのまま街をぶらついて、夕方、待ち合わせ場所へ向かった。 「ここでいいんだよね?」 「ええ、じきみんな来るはずよ」 アスカの言葉どおり、参道の入り口で待っていると、まずヒカリちゃんが来た。 「ひさしぶりね」 「うん、おひさしぶり」 挨拶をかわしているうちに、鈴原君や相田君も来た。 「よっ。シンジはもう来よったんか?」 「ううん。まだ」 「なんや、女を待たせてしょーがないやっちゃな」 と言いながら、二人は勝手に屋台の方へ向かった。やっぱり女の子に囲まれると恥ずかしいのかな。 「遅いっ」 シンジと綾波さんがなかなか来ないのでしびれを切らすアスカ。いやーな予感がする……。
「ごめん、遅くなって」 「…………………………」 予感的中、シンジと綾波さんは一緒に来た。 「なんで、あんたたちが一緒にくるのよ」 ご機嫌ナナメのアスカ。と、私。 「綾波が浴衣の着方分からないって言うからさ、リツコさんに聞きに行ったんだよ」 「ふーん、それでアンタが着せてあげたわけ?」 「そ、そんなわけないだろっ。からかわないでよ、もう」 リツコさん……、少し意外。なんだかリツコさんって怖そうな印象のある人だけど。 それに、かつてネルフで一緒に働いた仲とはいえ、 現在、綾波さんとどういう接点があるのかもよく分からない。 「まあ、まあ、いいじゃない、アスカ。さ、屋台を見て回ろうよ」 ヒカリちゃんは、形ばかり取りなすと、人混みに消えていった。ははーん、鈴原君ね。 結局、シンジとアスカと綾波さん、そして私の4人で夜店を回った。 アスカがぐいぐいシンジを引っ張っていってしまうので、自然、私と綾波さんが一緒になる。 「その浴衣、素敵ね」 「……ありがとう。あなたのも素敵だわ」 「あの、少し息苦しそうだけど大丈夫?」 「ええ、人混みが苦手なの。ごめんなさい、ちょっとあっちで休んでくるわ」 と言って、人気のない方へずんずん行ってしまう。 「待ってよ、綾波さん」 心配になってついて行く。ガラの悪い人にからまれたらどうするつもり?
「少し帯をゆるめたらどうかな」 綾波さんがあまり苦しそうなので、少しだけ帯をゆるめてあげる。 思えば私もいらぬ世話をしてしまったものだわ……。 突然、雷鳴がとどろき、にわか雨が降り出した。それはもう土砂降り。 キャー、ワーとみんな軒下や木陰に走る。中には傘を差す用意のいい人もいる。 わたしも急いで木の枝の生い茂っているところを見つけ、その下に入ったのであまり濡れずにすんだ。 と、綾波さんの方を振り返ると、びしょ濡れになっている。要領の悪い子……。 雨はあっというまに止み、人々は何事もなかったかのように歩き出す。 「すごい雨だったね。マナ、綾波、濡れなかった?」 間の悪いことに、シンジが私達を心配してこっちへやってくる。 「………………!」 綾波さんを間近で見て、急に黙り込むシンジ。薄暗いけど赤くなっているのが分かる。 綾波さんは……濡れそぼり、浴衣の裾をしどけなく乱れさせている。 もう、色っぽいにも程があるよ、綾波さん。そんなの反則!! 案の定、シンジは彼女を気遣い、もう帰ろうと言い出した。 仕方がない。帰るとしますか。 アスカは家に帰って床につくまでずーっとぶーたれていた。 私はもっと重症で、すっかり凹んでしまった。