-第三部-
5/13
綾波さんは、あんなに濡れて風邪をひかなかったかな。つい心配になって電話してみる。 「……はい、綾波です」 「えっと、霧島です。綾波さん、もしかして具合悪い?」 「ええ。ちょっと。でも大丈夫……」 弱々しい声。言葉とは逆に、本当に具合悪そう。 「待ってて。すぐ行くから」 「…………………………」 彼女は、別段断る様子もない。 「じゃ、着くまで寝てて。ね」 私はそう言って電話を切ると、綾波さんのマンションへ向かった。 途中で氷嚢と風邪薬を買う。場所は、昨日送っていったので分かっている。
「入るわよ」 鍵を開けておいてくれたようなので勝手に入った。 部屋の様子に愕然とする。 打ちっ放しのコンクリートの壁、汚れた床、粗末なベッド。 とても失礼だけど、殺風景としか言いようがない。 「大丈夫?」 おそるおそる声をかけながら、洗面台でタオルを濡らし、絞る。 彼女はベッドの上で苦しそうな息をしていた。 タオルで顔を拭いてあげる。そして、冷蔵庫から氷を出し、 氷嚢に入れて綾波さんに手渡す。 「それで、額や腋の下を冷やしてね」 「ありがとう…………」 「それじゃ、お粥作るから、お米ある?」 「うちにはお米も鍋も炊飯器もないわ」 「困ったな……。じゃ、コンビニで買ってくるわ。なにがいい?」 「アイスクリーム……」 「オッケー。じゃアイスクリームとインスタントのリゾットを買ってくるね」 「…………」 ……… …… … 戻ってきて、アイスクリームを一緒に食べ、薬と水を枕元に置いてあげた。 さて、そろそろ帰ろう。 「リゾットはチンして食べてね。お薬、ここに置いておくからね」 「ええ…………」 「それじゃ、お大事にね」 そう言って玄関を出ながら、思い出した。 シンジもこの部屋に来たことがあるらしく、殺風景なので驚いたと聞いたことがあるのを。 そのときは、シンジが綾波さんの話をするだけで腹が立ってきてよく聞いてなかったけど。 乙女の部屋がこれじゃあんまりよね。今度、お花でも持ってきて飾ってあげよう。