-第四部-
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夏休みも、残り少なくなってきた。 今日はお花を買って綾波さん宅に遊びに行こうと思う。 たぶん、花瓶もないだろうから一緒に買っておいた方がいいよね。 乙女の部屋があんな殺風景じゃあんまりだもの。とりあえず電話してみる。 「もしもし、綾波さん? あの……、突然電話してごめんね。 今から遊びに行っていいかな?」 「………ええ。いらっしゃい」 彼女は少し驚いた風だったけど、来ていいと言ってくれた。 「じゃ、行くね。待っててね」 道すがら、綾波さんとどんな話をしようかと考えながら歩く。 彼女と二人きりになると、いつも、何を話せばいいのか分からなくなるから。 うーん、学校の勉強の話をしようかな? いや、そんなことは話したくないよね、お互い。 じゃ、シンジのこと………。 ううん、まだ綾波さんとシンジのことを落ち着いて話す自信ない。 色々考えているうちに、お花屋さんまで来てしまった。 さて、どのお花にしようかな。 そうだ、カンパニュラがいいわ。 それから、花瓶と。 お財布と相談して小さな磁器製の花瓶を2000円で買う。 さあ、準備OK。
結局、綾波さんのマンションに着くまで、話題を一つも思いつかなかった。 ええい、なるようになる、よね。 ちょっと緊張しながら呼び鈴を押す。 「いらっしゃい……」 綾波さんはすぐに出てきて中に迎え入れてくれた。 「おみやげよ」 カンパニュラの花束と花瓶を見せる。 「……ありがとう」 やっぱり、驚いてるみたい。ちょっと唐突すぎるもんね。 「どこに飾ろうか?」 花瓶に水を入れながら尋ねる。 「……それじゃ、この棚にお願い」 そう言いながら棚の上の本を片付けてスペースを作る綾波さん。 「うん、じゃ、ここに置くね」 「……………………」 「……………………」 お花を飾り終えると、気まずい沈黙が訪れた。 さて、と。 「あのね、えと……、どうやったら綾波さんみたいにバストが大きくなるのかな」 「えっ?」 「あの、いや……私、なに言ってんだろ。ごめんなさい……」 「……………………」 「……………………」 「胸だけを温めるといいらしいわ」 綾波さんは、急にポツリとそう言った。 「本当? 綾波さん、やってるの?」 「わたしはやったことないけど、そう聞いたことあるから……」 「わかった。やってみるよ。ありがとう」
家に帰り着くなり、今日仕入れた耳寄り情報をアスカに教えてあげる。 「聞いて、アスカ。胸だけを温めると大きくなるんだって!」 「はぁ?」 怪訝そうな、アスカ。 「誰から聞いたの? そんな話」 「綾波さん」 「へ? ファーストがそう言ったの?」 一瞬ポカンとした顔をしたアスカは、クスクスと笑い出した。 「それは以前、あたしがシンジをからかって言った冗談よ。 暖めて大きくなるわけないじゃない」 「えぇ〜、そうなの? せっかくいいこと聞いたと思ったのに」 「いやぁ、笑わせてくれるわ。アレ、ファーストも聞いてたのね。 しかも、マナに受け売りするなんて。くくく……」 おかしくてたまらないという表情のアスカ。 「あんた、胸が小さいのそんなに気にしてたの?」 図星をつかれて、ちょっとグサッとくる。 「そんなことないよーだ。アスカのいじわる」 あ〜あ、明日は携帯用カイロを買い占めに行こうと思ったのに。 むぅ、アスカめ。自分がガセネタの情報源のクセして、あんなに笑うことないじゃない。 ちょっと、傷ついちゃったよ……。