-第一部-
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それから綾波さんとアスカさんの口論が始まり、でも、それはけして険悪なものでなかった。 なんだか、普通の女の子同士が好きな男の子のことで争っているような。 って、私たちは普通の女の子だよね。 だけど、シンジって、意外にもてるのね。それも美人に。 私もちょっとは可愛い方かなと思っているけど、アスカさんたちはアイドル並みだもんね。 負けちゃいそう。 でも、頑張る。一応、私がシンジの彼女だもん。 ……そう思って、いいんだよね。 ちょっぴり私の胸が苦しくなって、両手で胸の谷間を押さえた時、 「たっだいまー」 と、元気な葛城さんの声が玄関の方から聞こえた。 そして、葛城さんはリビングに現れて、 「マナちゃん、ひとりで留守番させてゴメンねー。お詫びにハイ、ケーキよ」 と言って、炬燵の上にこれも特大のケーキ箱を置いた。 二人の言い争いも止まり、私とアスカさんは無言で目線を交わしあった。 その後、炬燵に入って顔を向けあっている私たち3人娘+1お姉さん。 炬燵の上には3つのケーキ箱が並んでいる。 「ミサト。どうすんのよ? これ?」 「だって、仕方ないじゃない。安かったんだから。半額よ、半額」 「……私も半額で買ったわ」 リビングに嫌な沈黙が流れ、それに耐えられなくなった私は、
「葛城さん、シンジはまだなんですか?」 「あ、うん。シンちゃんは料理の準備をするから、スーパーに寄って行くって」 「……ハッ、ミサト! シンジに今すぐ電話!」 「アスカ、どうしたのよ?」 「いいから電話よ!」 「だから、どうして?」 「シンジのことだから、絶対ケーキを買ってくるわよ」 「あっ、まずいわ」 と言って、葛城さんがケータイをバックから取り出した時、 「ただいま」 と、シンジの声が玄関から聞こえた。 嫌な汗を額に浮かべて見つめ合う私たち。 そして、 「みんな、待たせて、ごめん。すぐに料理を作るから」 と言いながら、シンジがリビングに現れた。 シンジは顔をニコニコさせながら二つの箱を持った両手を上げて、 「クリスマスケーキを買ってきたよ。昨日、マナには寂しい思いをさせちゃったから お詫びに大好物のチーズケーキも買ってきたよ」 私はうれしさとちょこっとだけ困惑の混ざった涙を目に溜めていた。 その後、クリスマスパーティーが開かれて、ローストチキンなどクリスマスならではの 料理をたくさん食べた。 そして、私たちの前には一人一個のクリスマスケーキが…… 美味しかったけど、もうしばらくはケーキを見たくもないような。 あと、ヘルスメーターも見たくないよー。