-第一部-
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年末の忙しいような気分の時に、シンジのお父さん、ネルフ総司令に呼ばれた。 シンジとスーパーへ買い物に行こうとしていたのに。ぶぅー そんなわけで、ピラミッドのような本部の最上階へ行った。 どう見ても悪趣味なインテリアの部屋で、私とお父さんとあまりよく知らない お爺ちゃん(副司令らしい)が向かい合っていた。 長い長い沈黙の後、お父さんが口もとで両手を組みながら、 「ストラスバーグ君は、ネルフで預かることになった」 「…………?」 「向こうも表沙汰にはしたくないらしい」 「…………あ、あー」 と声を出して、私はポンと掌を叩いた。 ストラスバーグと言うから一瞬、誰だかわからなかった。 っていうか、今まですっかり忘れていた。ごめん、ムサシ。 「暫くしたら、君達と同じように生活できるだろう」 「でも、どうして、そこまでしてくれるんですか? 私だって元スパイなのに」 「人類補完計画。君もスパイとしてネルフを内偵していたのだ。知っているだろう」 「…………?」 「私はユイの理想を実現させたかった。また、それが再び会うための手段でもあった」 「…………?」 「だが、しかし、それも儚い希望に過ぎなかった。実現不可能な夢だったのだ」 「…………?」 「今は、ただ、シンジの未来を守るのみだ。そこで君に戦自との橋渡し役を頼みたい」 「戦自ですか?」 「そうだ。君には表の顔となって、世論を誘導してほしい」 ここで、お爺さんが口を開いた。
「具体的には、君に広報活動をしてもらいたいのだよ。戦自とネルフの友好関係の 証として、君が戦自からネルフへ交換奨学生として活躍しているとね」 「はぁ、」 「委員会とはこれからも化かし合いは続くだろうが、国連上層部へも既に手は打って ある。山岸博士のネルフ派遣は、その第一歩だよ」 「……はぁ」 「私もユイ君の夢を見てみたかったが、無理なものは仕方がない」 「……?」 「人類補完計画は必ず防いでみせよう」 「……? あのー、少しいいですか?」 どうしてもわからないことを聞いてみようと、私は声を出した。 「人類保管計画って、何ですか?」 「「なにっ!」」 お父さんとお爺さんは驚いたように大声を出した。 濃いサングラスの奥にある目がギョッとしたように大きく見開いたような気がする。 「君は知らないのか?」 「ええ、」 「加持一尉とも懇意なのだろう?」 「はあ、少しは。でも、人類保管計画なんて、いま初めて聞きました」 「「……」」 お父さんたちは暫く絶句していた後、二人で何やらひそひそ話を始めた。 そして、見た目には冷静に、でも額には汗の珠を浮かばせながら、
「今の話は無しだ」 「へっ?」 「私は何も話していない。君も何も聞いていない」 「えっ、ええっ!? あ、あの、じゃあ、ムサシは?」 「それは話した」 私はピーンと来た。 たぶん、お父さんたちは超重要機密を私に話してしまったのだ。 だったら、私にも考えがある。私はポツリ呟くように、 「……綾波さん、」 「ん、レイがどうした?」 「変なことを綾波さんに吹き込むのは止めてください。孫の顔が見たいとか」 「うっ、」 お父さんは顔を真っ赤にして、隣に立っているお爺さんは笑い出しそうになるのを 必死にこらえていた。 「別に綾波さんへどうこうというわけじゃなく、とにかくよけいな命令はしないで ください。綾波さん、純粋だから、本当にしてしまうかも」 「……わかった。善処しよう」 「絶対ですよ」 「……うむ、」 私はちょっとだけ頬を緩めた。 これで少なくとも綾波さんとは対等の立場よね。 人類保管計画がなんだかよくわからなかったけど、戦自や国連の方ともネルフは これから仲良くなるようだし、ムサシもほとんどお咎め無いようだし、ばっちぐーね。 もうすぐお正月。 平和なんだし、みんなで温泉とかに行きたいなぁ。