霧島マナの日記 鋼鉄のガールフレンド

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-第一部-
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∀月☆日

    今日は水泳部の練習が遅くまで続いて、夕ご飯の担当をシンジに代わってもらった。
    そんなわけでもないけど、久しぶりにシンジの料理が食べられるなぁ〜と思って、家に
    帰ったのに、リビングにいたのはアスカだけで、

  「ねえ、シンジは?」
  「部屋に籠もりっぱなしよ。父親に会うのが嫌みたい。嫌なら嫌って言えばいいのに」

    と、アスカは不機嫌そうに答えた。
    今度の日曜に、シンジはお母さんのお墓参りにお父さん(司令)と行くみたいで、それでなん
    だか悩んでいるみたいだった。両親のいない私にはお父さんがいるだけでも羨ましいけど、
    やっぱり親子の間でもいろいろあるから、きっと私にはわからない何かがあるんだろうな。
    私は少しでも元気づけたくて、シンジの部屋のふすまをトントンとノックした。

  「シンジ、開けるよ」

    部屋の中に入ると、シンジはベッドの上で私に背中を向けて寝ていた。
    私は声を掛けるのが躊躇われたけど、

  「今度の日曜日、お父さんと二人っきりで会うんだよね」
  「……」
  「美味しいものを食べたりもするんだ? いいなぁ」
  「……たぶん、それはないよ」

    背中を向けたまま小さな声でシンジはそう答えた。

  「父さん、仕事が忙しいから。お墓参りをしたら、すぐに帰るんじゃないかな」
  「そうなんだ。なんだか、寂しいね」
  「いいよ。僕、父さんが苦手だから。何をしゃべったらいいかもわからないし、その方がいい」
  「そんなことないよ。しゃべることなんてたくさんあるよ」

    シンジは起き上がって、私の方を向くと、

  「じゃあ、例えば?」
  「う〜ん、今日、学校であったこととか、家であったこととか、……私とのこととか」

    最後のところはほとんど口の中だけで私は言った。

  「と、とにかく、司令はシンジの言うことなら何でも聴くと思うよ」
  「マナは父さんのこと、よく知ってるんだね」

    拗ねるような声で言ったシンジに、ちょっとムカついて、

  「どういうこと?」
  「いや、ただ綾波とは違うんだなと思っただけだよ」
  「……綾波さんにも同じこと聞いたの?」
  「うん。綾波は何も教えてくれなかったけど。でも、……」
  「でも、?」

    シンジはうっすらと頬を染めると、

  「少し綾波のことがわかったような気がするんだ。今までよりもずっと」
  「……どういうこと?」
  「今日、綾波が雑巾を絞っているのを見て、なんだかお母さんのように見えた」
  「……」
  「そのことを綾波に言ったら、頬を染めて恥ずかしがったんだ。なんか可愛かったなあ」

    私はもう我慢が出来なくなって、そばにあったクッションを思いっきりシンジへぶつけてやった。

  「シンジのばかぁ! だいっきらい」

    そう言って、私は部屋を飛び出ていった。
    もうバレンタインにチョコなんてあげないんだから。