霧島マナの日記 鋼鉄のガールフレンド

鋼鉄のガールフレンド攻略 | 碇シンジ育成計画攻略 | サイトマップ

-第一部-
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∀月△日

    今日は日曜日。
    ミサトさんは友達の結婚式、アスカはヒカリちゃんの家でチョコレート作りで、
    シンジはお母さんの命日でお墓参りに出かけている。
    私はと言うと、家でお留守番。アスカと一緒に行ってもよかったんだけど、なん
    となくそんな気分でも無かったし、チョコレートは買ってあるし。
    でも、このチョコレートは私のお腹の中に入ってしまうかもしれない。
    あれからシンジとは口をきいていないし。
    そんなわけで、ちょっと鬱りながらサンデーモーニングで張さんの喝ーっを
    ぼーっと見ていたら玄関のチャイムが鳴った。
    ドアを開けたら、

  「私だ、」

    と言って、シンジのお父さんが立っていた。
    あまりにも意外な人がそこにいて、私はあんぐりと口を開けたまま立ち尽くしてしまった。
    それが数秒間か数十秒間か続いて、たぶん心配したのだろう。

  「君、大丈夫か?」

    と、お父さんが声を掛けてきた。
    私はハッとして、

  「は、はいっ。大丈夫です。とにかく、上がってください」
  「いや、ここでいい」
  「でも……。わかりました。じゃあ、ここで」
  「うむ、そうか。では、上がらせてもらおう」

    シンジのお父さんはそう言うと私の横を通り抜け、リビングへずんずんと入っていった。
    もしかして、中に入りたかったの?

    まあ、なんだかよく分からないけど、リビングのテーブルに向かい合って私たちは緑茶を
    飲んでいた。私はとっても気まずくて、でも、お父さんが何をしに来たのか気になって、

  「あのぅ、今日はシンジとお墓参りに行くんじゃ?」
  「その予定だ」
  「じゃあ、どうしてここに?」
  「予定では午後一時の待ち合わせだ」
  「えっ、だって、シンジは出ちゃいましたよ」
  「あれにもいろいろと行くところがあるのだろう」
  「はぁ、」

    そこで会話は終わってしまい、再び訪れた気まずい雰囲気。
    湯飲みのお茶は底をついて、私は逃げるようにお茶の替えをしようと腰を上げたら、

  「もう、お茶はいい。美味しかった。ありがとう」

    あの碇司令が礼を言うなんて。
    私はビックリしちゃってポカーンとしていたら、お父さんが、

  「ここでの暮らしはどうだ?」
  「あ、はい。楽しいです」
  「そうか、」
  「……」
  「……」
  「……?」
  「……君は、シンジとは何を話しているんだ?」
  「へっ?」

    その唐突な質問に私は目を丸くしていた。

  「いつもどんな会話をしている?」
  「会話って、普通ですけど。テレビのこととか、学校の噂話とか、美味しいもの
   こととか、特に変わった内容ではありません」
  「ふむ、」

    私の答えにお父さんは何やら考え込むような目をしていた。
    濃いサングラスで目はよく見えないけど、多分そうだと思う。
    で、私はその様子に数日前のシンジを思い出していた。

  「あのー、もしかして、シンジと何を話そうか悩んでいるんですか?」

    その問いは図星だったのか、お父さんの肩がビクッと上がった。
    同じことを悩んでいるなんて、やっぱり親子なんだなと、私は思わずクスッと
    笑ってしまった。

  「あ、すいません。別におかしいとかそんなんじゃなく、シンジも同じことで
   悩んでいたから、つい」
  「……シンジがそう言っていたのか?」
  「はい、」
  「そうか」
  「よけいな口出しかもしれませんけど、シンジとは普通でいいんじゃないでしょうか」
  「普通か。今まで私はシンジと同じ時間を過ごしていないからな。わからん」

    私はすこし傷口に触れてしまったことに気づいて、

  「すいません」
  「君が謝る必要は無い」
  「だけど……」

    そして、再び繰り返される沈黙。
    でも、私はもう一度お節介をしたくなった。

  「あのー、」
  「なんだ?」
  「お墓参りなんだから、シンジのお母さんのことを話せばいいんじゃないんでしょうか」
  「……」
  「シンジ、お母さんのことを知りたがってました。写真も見たこと無いし、お母さんの顔も
   憶えていないって。だから、その……」
  「わかった。そうしてみよう」
  「えっ、」

    その時、シンジのお父さんが小さく笑ったような気がした。
    だからかもしれない。私は口を開いていた。

  「シンジのお母さんはどういう人だったんですか?」
  「……」

    長い沈黙の後、お父さんはゆっくりと口を開いた。

  「やさしかった。ただ一人、私に優しくしてくれた」
  「……」
  「だが、」
  「……?」
  「ユイの考えていることは未だにわからん。私のことを理解してくれていたと
   長い間、考えていたが、それも今は自信が無い」
  「……」
  「人と人が完全に理解し合えることは不可能なことなのだ。そのための人類補完
   計画でもあったが、果たしてユイが夢見ていたものであったか。それもわからん」

    なにやら難しい話になってきて、私はついていけなくなってきたけど、

  「でも、完全に解り合えなくても、少しでも解り合えればいいんじゃないでしょうか」
  「……」
  「一緒に笑い合ったり、泣いたり、ケンカしたり、そんなことを繰り返しながら
   ちょっとずつ解り合っていくんだと思います」
  「……そうかもしれんな」

    そう言うと、お父さんは席を立った。
    そして、私の方を向くと、

  「あれのことを、これからも頼む」
  「あっ、はい」

    私は知らず大声でそう返事をしていた。
    それからお昼が過ぎて夕方前に、スーパーへの買い物から帰ってきたら
    チェロの旋律が部屋の中を流れていた。
    夕陽が窓から入り込み、シンジの弾くチェロを赤く染めている。
    私は思わず拍手をしていた。

  「あっ、マナ。帰ってきたんだ」
  「シンジ。チェロ、弾けたんだ?」
  「5歳の時から始めて、この程度だからね。別に才能なんて無いよ」
  「ううん。そんなことない。私、感動しちゃったもん」
  「あ、ありがとう」

    シンジはちょっと恥ずかしそうに頬を染めた。
    いい雰囲気の中、私は少しの勇気を出して、

  「あのね、シンジ。ごめんね。今まで怒ってて」

    私の言葉にシンジは驚いたような顔をしたけど、

  「ううん。マナが謝るようなことじゃないよ」
  「違う。私が悪いの」
  「……」
  「でも、私がどうして怒ったのか、わかるのよね?」
  「う、うん」

    シンジは夕焼けよりも赤く頬を染めると、

  「綾波のことでヤキモチを焼いたんだよね?」
  「う、うん」

    この時、たぶん私の顔も真っ赤になっていたと思う。
    そのまま私たちは俯きながら黙り合っていたけど、

  「今日、父さんから母さんのことを聞いたんだ。初めてだった」
  「そうなの?」

    私は顔を上げて、シンジを見た。
    シンジは俯いたままで、

  「マナ、ありがとう。今日のこと、父さんから聞いたよ」
  「あっ、うん」
  「本当にありがとう。ほんの数日だったけど、マナとケンカしてわかったんだ。
   今までマナがそばにいてくれて、どんなに僕を励ましてくれてたか」
  「……」
  「僕はこれからもずっとマナと一緒にいたい」
  「シンジ、」

    シンジも顔を上げて、そして私たちは見つめ合った。
    気恥ずかしいのはあったけど、それよりもお互いに見ていたかったんだと思う。
    やがて、シンジは小さく口を開き、

  「あのさ、マナにちょっとお礼がしたいんだ。今までのお礼。僕にできることなら
   何でも言ってよ」
  「ほんとうに何でもいいの?」
  「僕にできることなら」
  「ううん、シンジにしかできないこと」
  「僕に?」
  「うん、」
  「なに?」
  「それは……」

    私は今ベッドの上でこの日記を書いている。
    たぶん、今日のことはずっと一生おぼえていると思う。
    初めての時はただ雰囲気に流されただけかもしれない。
    でも、2回目の今日は確かに気持ちが通い合っていた。
    ふふふっ、
    えへへ
    我慢してもしきれないというのはこのことね。どうしても笑みがこぼれちゃう。
    おかげでアスカには変な目で見られたし。
    アスカ、ごめんね。私は友情より恋を選びます。てへっ。
    それはともかく、シンジ、バレンタインデーは覚悟していてね。