-第一部-
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春休みになって水泳部も忙しくないので、今はバンドの練習をがんばっている。 休み中でも、みんなと会えて楽しいから好き。 いろいろあったけど、アスカはヴォーカルを諦めてくれたし、まあ、良しとしましょ。 でも、アスカがちょっと半泣きだったのは可哀想だったかな。 今日は、出来の悪い4人組は居残り練習で、私とヒカリちゃんはスーパーへ寄って 夕ご飯のお買い物をした。 そんな帰り道、夕暮れの中を歩いていたけど、ヒカリちゃんはとってもニコニコしていた。 そう言えば、ヒカリちゃん、この頃はいつも楽しそう。 「バンド、楽しいね?」 と私が言うと、はにかみながらヒカリちゃんは、 「うん。楽しい」 「ヒカリちゃんはヴォーカルだもんね。いいなあ」 「別に、そういうわけじゃなくて。去年のことを思い出して、それでね」 「あ、あー。去年の学園祭でもシンジたちとバンドを組んだんだよね」 以前、シンジに聞いたことを言ったら、ヒカリちゃんは少し俯いて 「うん、」 と言った。なんだか、ヒカリちゃんの頬が夕焼けよりも赤く染まっているように見えて。 ヒカリちゃんはチラチラと私の方を盗み見るような仕草をしてから、 「マナちゃん。……マナちゃんは……」 「……ん?」 「ううん。なんでもない。じゃあ、バイバイ、マナちゃん」 と言って別れたヒカリちゃんの後ろ姿を、私はしばらく見送っていた。 第二部へ続く