-第三部-
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珍しい人が訪ねてきた。赤木リツコ博士だ。 「久しぶりね、ミサト」 「夕ご飯食べていくでしょ、リツコ」 ミサトさんはもう平常に戻っている。もっとも、外見だけかもしれないけど。 「ええ、よばれていくわ」 「じゃ、買い出しにいってくる。ここで、この子たちと待ってて」 ミサトさんはそう言うと、カチャカチャと車のキーを回した。 「あたしも、一緒に行くわ」 アスカもついて行くと言う。もしかすると、ミサトさんがいない場所で、 リツコさんと長時間一緒にいるのが気詰まりなのかもしれない。 しばし、リビングでリツコさんと二人きり。 私はふと思い出して聞いてみた。 「あの、デア ベルフェル イスト ゲファーレンってどういう意味ですか?」 「あら、マナちゃん。難しいこと聞くわね。"Der Wülfel ist gefallen." は 英語に直訳すると "The cube is thrown." よ」 「すみません。突然変なこと聞いて。前にアスカが言ってたものだから…… ザ キューブ イズ スローン……、賽は投げられた、ですか?」 「そういうことね。参考になったかしら?」 「は、はい。ありがとうございます」 たしか、アスカがこう言ったのはシンジに泊まりに来るように誘った時だった。 私は、アスカに対する醜い感情が芽生えたような気がして、必死にそれを打ち消そうとした。