-外伝(1)-
「ねぇ、マナ。あなたこの前、風邪で学校休んだじゃない?」 アスカがいつになくそわそわした様子で話しかけてくる。 「う、うん」 「あのね……、渡し忘れてたんだけど……、はい、これ」 と、数枚のハンドアウトを手渡された。 これ、学校の宿題じゃない。しかも、今週いっぱいで締め切り。 しかも、今は日曜の夜8時。もう間に合わないよ……。 「"kein Problem!!"」 アスカが私の肩を叩く。 「二人で手分けすればまだ間に合うわ」 「って、アスカもやってないの?」 「そうなのよ。さ、口を動かしてても始まらないわ、リビングでやりましょ」 リビングのテーブルではミサトさんがたくさんの書類を広げている。 「ミサトも宿題?」 「ま、そんなとこよ」 ミサトさんは憮然としてPCのモニタを眺めながら答えた。 それから数十分、私たちは書類を読んだり鉛筆を走らせたりキーボードを叩いたり。
「いいこと思いついたわ!」 ミサトさんは急に顔を上げると、目を輝かせて言った。 「あたしがアスカの分の宿題やってあげるから、 アスカはあたしの仕事やってちょうだい」 国連軍事参謀委員会(>>286)の仕事を中学生にやらせるなんてそんなムチャな……。 「なるほど、国連の書類は英語だからあたしがやった方が早いわね。 よし、まっかせなさい。ミサトはこれとこれを頼むわ」 うーむ、国際社会の行く末がちょっと不安だよ……。 深夜2時過ぎ。 私の分の宿題はようやく三分の二を終えたところ。やっぱり、無理だよ……。 眠い……。しんどい………。むにゃ、むにゃ…………。 「大体、今の時代に勤勉さを計るだけの宿題なんてナンセンスよね……」 「それは違うわ、アスカ。社会が求めてるのはその勤勉な……人間………」 「ミサトの口から……勤勉なんて言葉が出るのを聞くとは…………」 アスカとミサトさんの会話が子守歌に聞こえてくる。 「…それに、徹夜ってお肌に悪いのよね……」 「その点には同意するわ……。特に25過ぎると…………」 「もう、これ以上は無理………。でも大丈夫、寝てる間に 小さなおじさんたちが代わりにやってくれるわ……むにゃ……」 アスカ、それ、靴屋さん…………。 私も、もう限界…………。
ほとんど意識がなくなりかけたそのとき、天啓の如くひらめいた。 「明日、っていうかもう今日だけど、十月の第二月曜だよね?」 「ん……? だから何よ?」 「日本の祝日よ! 今日は体育の日だから学校はお休みだわ」 「!」 「………なーんだ、早くそれを言ってよね!」 「ごめん、ごめん。とにかく一日余裕ができたから今日はもう寝よ」 「さんせーい。じゃ、ミサト、お休みなさい」 そう言うが早いか自室へと向かうアスカ。 「そっか〜、今日は体育の日…… って、国連は日本の祝日関係ないから、 結局、あたしだけ朝まで残業ってこと? とほほ……」 と、テーブルの上に倒れ伏すミサトさん。 かわいそうなミサトさん……。でも、私も寝ます。ごめんね。