-外伝(1)-
商業地区で、相田君を見かけた。それだけならどうということもないんだけど、 今日はちょっと様子が違う。なんと、女の子と一緒だ。 これはクラスメートとして詳細を確認する必要があるわ。 早速追跡開始………。 つかず離れず、およそ30メートルくらいの距離を保ちつつ、後を追う。 もとよりここは比較的人通りの多い商店街、仮に相田君が私に気付いても、 とくに怪しい素振りを見せなければ偶然だと思ってくれるに違いない。 だから、食い入るように見つめたりしてはダメ、視界の端っこに辛うじて捉える程度にする。 不意に、相田君が後ろを振り向いた。 私は、思わず方向転換して横道に入ってしまった。 私としたことが、初歩的なミスを……。気づかれたかな? 出て行って尾行を続けるかどうか迷っていると、背後に人の気配を感じる。 ここはビルとビルの間の薄暗い路地。えっ、まさか痴漢!?
「こないなとこで何しとるんや? 霧島」 それは、鈴原君だった。 「えっ? あ、いや、その……。鈴原君こそ何してるの?」 「ワイはな、ケンスケを……」 「しーっ!」 "ケンスケ"と聞いてギクリとした私は唇の前に指を立て、 鈴原君が続けるのを制した。 「なにが『しーっ』や、赤ん坊の小便やあるまいし。 あいつはもうとっくに行ってしもうたがな」 彼の言うことには、最近、相田君の付き合いが悪いので、 何度か後をつけてみていて、今もその最中だそうだ。 「彼女が出来たんなら出来たでえェ、せやけど、 ワイらにな〜んも教えてくれんというのはちと水臭いと思うてな」 「そうだよね、水臭いよね。ところでシンジはどうしたの?」 「ケンスケの事はケンスケに任せたらえェ、放っとけとさ。 アイツはそういうドライなやっちゃ」 「………とにかく」 鈴原君は言葉を継いだ。 「もしかしたら、ケンスケの奴、タチの悪いデート商法にでも引っかかっとるかもしれん。 今日こそはあの女とどこへ行くのか突き止めなアカン」 確かに……。こう言うと失礼だけど、相田君ってそんなにモテるタイプでもないし、 生き馬の目を抜くようなセカンドインパクト後のこの世の中、 中学生相手のデート商法というのはありがちな話だ。 例えば、父親のカードなどで支払ってしまえば最後、 後で、未成年だから契約を取り消すなどと言ってみてもそう簡単にお金を取り戻せるとは思えない。
それにしても、女を餌に釣るなんてなんて卑劣な……。 ん? なんか、心に引っかかるけど、ま、いいか。 「そ、そうだね。相田君の一大事だよ。なんとかしなくちゃ」 「せやな」 こうして、私と鈴原君は相田君とその女の尾行を続けた。 いまの鈴原君とのやりとりでちょっと距離があいてしまったけど、 なんとか相田君たちに追いつくことができた。 しかし、彼らは、怪しげな雑居ビルや高価な品物を売る店に入っていくこともなく、 どんどん郊外へと歩いていく。 やっぱり、思い過ごしだったかな? 相田君だって彼女の一人や二人居ても別段不思議なことはない……、 そう思い始めた矢先のことだった。 「あッ、ケンスケら、あの建物に入って行くで!」 ――――結局、相田君は悪徳商法に引っかかったわけではなかった。 相田君たちが入っていった建物の表札は【新麹町聖イグナチオ教会】………。 う〜む………。相田君が幸せなら、ま、いいのかな?