-外伝(1)-
スーパーでヒカリちゃんに会った。 「それって、鈴原君に作ってあげるお弁当のお菜?」 「う、うん……」 「いいな、いいな〜。愛妻弁当だね♪」 「愛妻なんて、そんな……」 「もう二人は公認カップル、夫婦も同然じゃない」 「だから、そんなんじゃないんだってば……」 私が彼女にこんなにからむのには訳がある。 先日(>>464)鈴原君に、シンジとの仲をからかわれたので、今日はその仕返しなのだ。 江戸の仇を長崎で討つようで、ヒカリちゃんにはちょっと気の毒だけど。 「ねぇ、あれって綾波さんじゃない?」 話をそらせようとしてか、ヒカリちゃんがインスタント食品売り場を指さした。 カップラーメンを山のように買い込んでいる……。 「こんにちは、綾波さん」 早速声をかける。 「ずいぶんいっぱい買うんだね」 「一度に沢山買っておくと、何度も買いに来なくていいから……」 「でも……、そんなのばっかりじゃ身体に毒よ」 そう言った瞬間、しまった、と思った。お節介すぎるのは私の悪い癖だ。 しかし、綾波さんは別段気を悪くした風でもなく、 ヒカリちゃんの買い物カゴにちらりと目をやりながら言った。 「そうね。わたしも料理してみようかしら」
綾波さんの意外な言葉に私とヒカリちゃんは顔を見合わせた。 「料理だったらヒカリちゃんが上手だから教えて貰うといいよ」 と、水を向けてみる。 「………洞木さん、教えてくれる?」 「え、ええ。わたしなんかでよければいつでも。 そうだ、今日はウチ、みんな外で食べてくるって言ってたから、 今から綾波さんちに行って一緒に何か作ろうよ」 しばらくの話し合いの後、餃子を作ることに決定した。 これだけは肉が入っていても綾波さん平気みたい。 ―――30分後。 「おじゃましま〜す」 綾波さんの部屋に到着。モノが少ないのは相変わらずだけど、 以前と違って床はキレイに掃除されていた。
「まぁ、素敵。風鈴草ね」 棚の上に飾られた、小さな花瓶の中の花を見つけたヒカリちゃんの声に、 ハッとさせられる。 風鈴草(カンパニュラ)は、何ヶ月も前(>>345)に私が綾波さんにあげた花だ。 でも、もうとっくに枯れている筈。 「これ、綾波さんが買ってきたの?」 思わず尋ねた。 「ええ。カンパニュラの花言葉は友情。 わたしと霧島さんがお友達になった証だから」 私は、なぜだか目頭が熱くなった。 「………綾波さん、変わったね」 「うん、変わった」 「そうかしら?」 「さあ、餃子の餡、捏ねよ♪」
それから、私たちは仲良くタマネギや肉を刻んだ。 ところが、大量の餡を皮に包み終えた時、困ったことに気がついた。 「ねぇ、綾波さん、フライパンあるよね?」 「……………」 「ないの?」 「……ええ。ごめんなさい」 「大丈夫。水餃子にすればいいから」 と、ヒカリちゃん。さすが、お料理のオーソリティ。 しかし、綾波さんの表情は晴れない。 「家には鍋もないわ……」 包丁とまな板とボウルだけは買ってきたのだけれど、フライパンも鍋もないのは想定外だった……。 ――――結局、 オーブンレンジで少しずつ焼いたのでずいぶん時間がかかった。 おまけに、炊飯器もなかったので、ご飯無しの餃子のみ。 この突然の押しかけ料理教室は大成功とは言い難かったけど、 でも、とても楽しかった。なにより、綾波さんやヒカリちゃんと過ごした時間そのものが。 ところで、ヒカリちゃん。今度はミサトさんにもお料理教えてあげて!