-第五部-
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「ロン!」 うぐっ。振り込んでしまった。 「いやぁ、お嬢ちゃん、すまんのぅ。 リーチ、一盃口、役牌、混一色、ドラドラと…… ありゃ裏ドラまでひいてもうたわ、うひひ、跳満や」 ヤクザの片割れが、いまにも取って食うぞという感じでいやらしく笑う。 ………あぁ、もうダメかもしれない。 このまま香港かどっかに売り飛ばされちゃうのかな……うぅ……。 頼みの綱はシンジ。 でも、早くも南3局、もう後がないよ………。
うーん、手牌はまずまず。高めなら三色が付きそうだけど……。
「ポン!」 シンジが發を鳴いた。 えっと……。發一飜で安和了り? ……いや、この勝負、アスカの提案で私とシンジの二人が入る代わりに、 どちらかがトップにならないと勝ったことにならない。 さっき私に跳満を振り込ませたおじさんがかなり一人勝ちしているので、 この期に及んで役牌のみということはないはずだわ。 と、いうことは? 「ポン!」 シンジが今度は中をポン! 大三元を狙ってるのね、シンジ。 普通なら、混一トイトイ狙いあたりに見えなくもないけど、 萬子、索子、筒子を満遍なく捨ててるし、ドラで場風の南を自摸切りしているし、 何よりもシンジのかなり緊張した表情が、 大三元イーシャンテンないしテンパイであることを物語っている。 でも、發と中を晒した今、ヤクザのおじさん達が易々と振り込んでくれるはずないし…… ………ん?
何と、私はシンジのことばかり考えながら自摸っては切りしているうちに、 いつのまにか和了りを引いていた。 うーむ………。 迷いながらも、目を瞑ってせっかく自摸った三索を切る。 だって、この手じゃ逆転は無理だもんね。 さて、この判断が吉と出るか凶とでるか。
えっ? 次巡、私は幸運にも白を引き当てた! これって、シンジのロン牌だよね? そうだよね? 勢い込んで、音高く卓に白を叩きつける。 一瞬の沈黙の後、 「………ロン」 シンジが申し訳なさそうに言う。バンザーイ!! さすが、シンジ。 いいのよ。どちらかが勝てばいいんだから。 最終南4局、シンジはなんとか逃げ切り、無事トップで半荘を終えた。 「助かったァ。ありがとう、シンジ君!」 ヤクザ屋さんから解放された青葉さんは、シンジに感謝感激の雨あられを降らせた。 たぶん、ヤクザのおじさん達はなんらかのイカサマのたぐいをやっていて、 十中八九勝つ見込みだったのだろう。しかし、シンジの思わぬ強運に負かされたというわけだ。 「それにしても、アスカ、私たちが負けたらどうするつもりだったの?」 「もっちろん、あたしとマナの格闘術でひと暴れするつもりだったわよ」 ……やっぱり。 私は、唖然としつつも、アスカの「強気」を羨ましく思った。 この娘、ヤクザなんかより役者が一枚上だわ。