-第五部-
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「お前……、何者だ?」 まだみぞおちを押さえている男が尋ねる。 私は、それには答えず、 縛られた男の人(おそらくは水門を管理する土木事務所の職員)を指さしながら、 「その人の縄を解きなさい」 とだけ言った。 「君は……一体……何者かね?」 縄を解かれ、猿ぐつわを外された水門職員とおぼしき男性は、 テロリストと同じことを私に問いかけた。 「それは、後で。とにかく、警察に連絡して下さい」 「しかし、……電話が通じないんだ……無線も妨害されているようで……」 困った。ともかく、爆破だけは阻止しないと。 しかし、どうやって………? この拳銃一挺で残る二人のテロリストを制圧できるだろうか………。 その時だった。 「警察だ! 動くな!! 銃を床に置いて手を頭の後ろで組め!」 口々にそう叫ぶ声がしたかと思うと、車のヘッドライトの眩い光が 何本も私たちに向けられた。 へ?
―――結局、後に判明した今回の事件の概要はおよそ次の通りだった。 テロリスト達は湖尻水門のほか、深良水門、それに 第三新東京市内にある河川管理事務所などを占拠。 駒ヶ岳山頂からの合図により湖尻水門に爆弾をセットし、 同じく山頂からの合図で(水没することになる)河川管理事務所から退去後、 爆破する手筈だったらしい。 「マナ! 良かった、無事だったんだね」 表からシンジの声が聞こえた。 「シンジ!」 急いで駆け寄る。 「マナ、ごめん……マナが危ない目に遭ってたのに……僕は………」 「シンジ………私こそ……心配かけてごめんね……」 私は、そう言ってシンジに抱きついた。 彼が私のことを心配してくれているのが本当に嬉しかったから。
「シンジが警察を呼んでくれたの?」 「それがね、マナがなかなか戻らないから、とりあえずこの水門まで来て…… 武器を持った人影が見えたからすぐ警察に通報しようとしたんだけど電話が通じなくって」 「うん」 「だから、走って交番まで行こうとしたら途中でパトカーとすれちがったんで、引き返してきたんだ」 「なるほど。たぶん、あのテロリスト達が電話を不通にしたのね。 だから発光信号なんか使ってたんだわ」 おおよそ合点がいきかけたところで、また一つ疑問が湧いてきた。 それでは、一体、誰が警察に通報したのだろう。 何かパズルのピースが足りないような、妙な違和感が頭にこびりついて離れない。 「君、事情聴取をするから一緒に来てくれたまえ」 警察官が私の肩を叩いて言った。 「はい……」 「じゃ、行ってくるね」 私はシンジに向かってそう言うと、警察官に伴われてパトカーに乗った。