-第五部-
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朝、運ばれてきた食事をすませるとすぐに、面会人がいるとのことで別室に通された。 何と、その面会人とは青葉さんだった……。 「後からシンジ君に聞いたんだけど、あの時、マナちゃんの協力で勝てたんだってね」 「は、はい……」 「ありがとう……、マナちゃん、本当に助かったよ……」 彼が言っているのは先日の麻雀(>>583)の話だ。 シンジのお陰で借金が棒引きになったのがよっぽど嬉しかったみたい……。 私は正直忘れかけていたんだけど、青葉さんがしきりに感謝するので無視するわけにもいかず、 「どういたしまして」 とだけ言っておいた。 午後、今度はミサトさんとアスカ、それにシンジが面会に来てくれた。 「安心して! マナちゃん!! 防衛庁に厳重に抗議してきたから」 ミサトさんが、ぐっと力みながら言う。 「なんでも、今回のテロね、戦自と関わりがあるらしいのよ。 実行犯の何人かは現役の戦自兵士だったらしいわ。 だから、元戦自のマナも疑われちゃったのね。まったく、デタラメな話よね」 と、アスカ。 なるほど、それで、なぜテロリストがP226を持っていたのかは分かった。 しかし、なぜ私が警察署でなく陸自駐屯地に連れてこられたのかという疑問は依然として残る………。
「ねえ、シンジ。クラスのみんなはどうしてる? みんな元気?」 「うーん、あれ以来学校が休みになっちゃってよく分からないんだ」 「そう………」 「あっ、一つだけ、トウジは妹さんが退院したんで大喜びしてたよ」 「そうなんだ! よかったね……」 「例の慈善家のLarksoulさん(>>580)だっけ? あの人にお礼状送るんだって言って 英語の辞書と首っ引きで手紙書いてるらしいよ」 「へー、あの鈴原君がねぇ………」 暗い話が多い中、珍しく明るいニュースを聞いたので、心の中が暖かくなった気がする。 こうしてシンジ達としばし雑談しているうちに、面会時間が過ぎていった。 シンジ達と別れ、個室に戻った後、一人でまた色々と考えてみた。 ミサトさんが防衛庁に抗議……自衛隊は防衛庁の管轄……… 一方、戦自は国防省………テロは戦自と関わりが………SIG SAUER P226…… ややこしいのだけれど、陸海空自衛隊は、戦自、戦略自衛隊とは別組織であり、 従来は国連軍に編入され、主として対使徒戦を行ってきたが、 全ての使徒が殲滅された今、その存在意義が問われている。
突然、私の頭の中で幾つもの単語が一本の糸で繋がった。 報道等ではあのテロは戦自が仕組んだものとされているようだけど、 もしかして、陸海空自の仕業ではないだろうか。 理由の一つはあのSIG。 数年前から戦自ではSIG SAUER P226を制式としている。 かたや陸海空自では古いタイプのP220が使われていて、P226といえば戦自というイメージがある。 しかし、テロを起こすときに、この銃を使って如何にも「正体は戦自です」 と告白するようなマネをするだろうか。 なにかわざとらしい。 もう一つは、テロリストを逮捕する際の異様な手際の良さ。 まるで、テロが起きることを予期していたかのようだった。 そして、決定的なのが、この私が現にこうして陸自駐屯地に拘束されていること。 陸自で取調べなんて通常の刑事司法手続には決してないことの筈だ。 ……つまり、あのとき湖尻水門で事情聴取をするからと言って私を車に乗せたあの警官達、 あれは実は警官に扮した陸自隊員だった? そうとしか考えられない。 私、これからどうなっちゃうのかな………。 戦自時代といい、今といい、私ってつくづく囚われの身に縁があるみたい。 とほほ……。