-外伝(2)-
周知の通り、光る巨人が南極にあの不吉な姿を現してよりのち、地球の地軸は狂い、 かつて美しい四季に彩られた日本は、常夏となってしまった。 思えば今回の事件はそのような異常とも言える気象によって引き起こされた悲劇なのかもしれない。 ……… …… … それは夕方と宵の口の間くらいの中途半端な時間だった。 「"Gott verdammen! Die evel Wanzen sollen in den Flammen der Hölle sein!!!" (うきゃ〜! ★∬▲□▽◎☆●〒★◇!!!)」 突然、風呂場からドイツ語混じりのものすごい悲鳴がした。 驚いて風呂場へと駆けつける私とミサトさん、……とペンペン。 そこには、腰を抜かしたままバスタオルを胸に当て、ガタガタと震えているアスカがいた。 一体なにごとやらさっぱり分からない私は、とりあえずバスタオルを引っ張って アスカの色々なところを隠してあげた。 女同士とはいえ、やっぱり気になるし………。 そんな私とは対照的にミサトさんはキリリとした目でアスカを見つめ、 全てを悟ったように頷くと、言った。 「大丈夫。ペンペンがなんとかしてくれるわ!」 へ? ペンペン? ってか、何をどうするわけ? ―――さっぱり分からない。 しかし、本当の悲劇はこれからだった。
後日、私は、アスカをあれほど怯えさせたのはゴキブリだったことを知らされた。 そもそも、年中高温多湿な今の気候に、家事の大嫌いなミサトさん、 と来ればアレの発生は予期されて然るべきだった。うぅ……。 たかがゴキブリ、されどゴキブリ。 確かに、あれは怖いよね。お風呂なんかで無防備な時は特に。 しかし、ペンペンってばどうやってゴキブリ退治したのかな? いくら器用と言っても所詮トリ、殺虫剤を吹きかけてつまんで捨てるなんて無理っぽいけど。 腑に落ちないのでミサトさんに聞いてみる。 「ミサトさん、ペンペンがゴキブリをなんとかしてくれるって言ってたけど、 あの子って"ヒレ"しかないのにどうやって退治するんですか?」 「あ〜、ペンペンはシンちゃんが出てってから(※)ウチで唯一匹の男の子だし、 昔からゴキブリ退治は任せてるのよ。ま、退治っていうか、食べるだけなんだけどね」 えぇ〜〜〜!!! ゴキブリを……た、食べる!? め、目眩が…………。 私は、金輪際、ペンペンを抱っこしてあげないことを固く心に決めた。 ※ >>283