霧島マナの日記 鋼鉄のガールフレンド

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○月24日その1

     盗んだバイクで走りだす14の夜。
     って、実際にはそんなことしないけど、私はちょっとプチ家出もといプチ逃亡をした。
     葛城一尉の言っていることはわかるけど、でも、胸の中にもやもやしたものがあった。
     これが反抗期というものなの?
     そんなわけで、逃げ切れることはできないけど、将来への備えとしてどこまで行けるか試す
    意味もこめて第3新東京市から出てみることにした。
     とりあえずの行き先は戦自の御殿場駐屯基地。
     その最寄り駅までリニアレールで30分くらいのところ。
     なんだかムサシやケイタの顔を見てみたい気持ちになったからだった。
     みんな元気かな。
     リニアレールの窓の外に流れる風景を見ながら私はそう思った。
     たぶん、というか絶対にムサシやケイタは私のことなんか知らないと思う。
     でも、ただみんなが元気でいる姿を見れれば、私もこれからやって行けそうな気がした。
     やがて御殿場の駅に着くと、そこから歩いて基地まで向かった。
     とても長い距離だけど、私には馴染みのある風景が続いていて、このまま戦自に戻りたい。
     そう心から思いはじめていた。
     と、そんな時、前方にマラソンをしている集団が近づいてきた。
     もしかしてと思いながら歩いていくと、その人達は休憩になったのか道横の原っぱへ腰を下ろし
    始めた。私は彼らの方を盗み見ながら通り過ぎようとしたが、
    「あっ、」
     と、思わず声を上げてしまった。
     そこにムサシとケイタがいた。懐かしさが胸に広がる。
     私は知らないうちに二人へ右手を上げて、
    「ムサ……」
     と声をかけそうになったんだけど、”誰よ、あれ?”と心の中で呟いた。
     ムサシとケイタが楽しそうにおしゃべりをしている相手はとっても可愛い女の子だった。
     もう夢中っていうくらい二人の顔は緩んでいる。
     そう言えば、あの女の子は前の時、私の次に人気があったコだったような。
     あの二人、かわいい女の子だったら誰でもいいの?と思うと同時に、やっぱり私の居場所は
    ここには無いんだと思い知らされて、私はそこから思わず走り去っていた。

     行く当てを失ってしまった私は御殿場の街を彷徨っていた。
     お日さまは僅かに傾き始め、私のおなかはぐぅ〜と鳴った。
    「昨日から、何も食べてない」
     と呟いて、ポケットからお財布を取りだす。
     ネルフからのクレカと現金が3千円くらい。
     クレカを使っちゃうとそこから見つかっちゃう可能性がある。
     お金、大事に使わなきゃ。
     とりあえず辺りを見回すと、御殿場の駅が目に入った。
     私はそこへ真っ直ぐに向かい、立ち食いそば屋さんへ行った。
     きつねうどん、260円。
     頼んで30秒で出てきたうどんは熱くて、猫舌な私はふーふー吹きながら食べた。
     おいしい。
     おなかが空いていたからよけいにそう思う。
     少しずつ元気が出てきたような感じもする。
     私は冷めかけてきたおつゆをちょこっとずつ飲みながら、これからどうしようかと考えていたが、
    ”お母さんとお父さんに、会いに行こうかな”
     と心の中で呟いた。
     もう何年も前に死んじゃったお母さんお父さん。最後にお墓参りへ行ったのはいつだろう。
     そう思ったら、いても立ってもいられなくなって、私はドンブリのおつゆを最後まで飲み干してから、
    駅の切符売り場まで早足で向かっていった。
     お墓のある静岡までの切符を買うくらいのお金は大丈夫。どうせ時間はたくさんあるし、普通列
    車で行こうと決め、私は券売機へ千円札を入れようとしたが、
    『只今、東海地方を中心とした関東中部全域全域に特別非常事態宣言が発令されました』
     と、けたたましいサイレントと一緒にアナウンスが鳴り響いた。
    「使徒なの!?」
     そう私は言うと、千円札をお財布にしまい、全速力で駅舎から出た。
     遙か西の方の空に見えるのは、巨大な正八面体。あんな変なものは使徒しかいない。
     昨日、使徒と戦ったばかりだというの。
    「はやっ、」
     と、私は誰へともなくツッコミを入れていた。

     でも、私にはもう関係ないとも思った。
     ネルフから脱走してきたんだし、別にパイロットを首になってもかまわないし。
     もしもネルフが使徒に負けてサードインパクトが起こったとしても、それそれで仕方がない
    という諦めも私の中にあった。昨日の戦いの時も一度はそう考えたんだし。
     とりあえず、私は民間人と同じように避難しようと歩き始めたが、
    「ヒカリ、急いで」
     と、若いお母さんが5歳くらいの子の手を引っ張って走っていた。
    「あの子、ヒカリちゃんと同じ名前なんだ」
     私はそう呟くと、箱根の山へ視線を向けた。
     今頃、ヒカリちゃんは避難しているのかなと思った。
     使徒の攻撃にシェルターは大丈夫なのかな。
     怖がっていないかな。
     そういうことを考え始めたら、もう想像が止まらなくなった。
     私、……
    「行かなきゃ」
     私にも守りたい人はいる。
     ヒカリちゃんがそうだし、この世界のシンジや綾波さんもそう。
     二人はこれから使徒と戦わなきゃいけないのに、私だけがこんなところにいるなんて。
     気がついたら、私は全速力で駆け出していた。
    ”お願い。間に合って”
     そう、心の中で叫びながら。

     30分くらい走ったような気がする。
     箱根の山を登っていくきつさで呼吸ができないくらい苦しさが胸を満たしていた。
     いつしか、足は止まりかけ、荒い呼吸を繰り返す。
     でも、私は負けられない。
     道路の先をきっと見据えて、私はまた走り出した。
     胸が苦しい。もう限界かもと思った時、私の横を一台の車が止まった。
    「本部に行くなら送っていくよ」
     と、ロン毛の人が車の中から私に声をかけた。

     その人はネルフの制服を着ていて、どこかで見た覚えはある。
    「え、えーと、あなたは?」
    「まあ、仕方がないか。俺は本部でオペレーターをしている青葉だ」
    「あっ、あー、”パターン青、使徒です”の人」
    「いや、それは日向の方」
    「ごめんなさい。まだ本部のことがよくわからなくて」
    「いや、いいさ。俺も本部の連中全部はしらないしさ」
     と言って、青葉さんは苦笑いをした。
     その後、青葉さんの運転する車へ乗って、私は本部へ向かった。
    「実は、マナちゃんの行動は全て把握していたんだ」
     と、青葉さんはハンドルを握りながら言った。
    「戦自の御殿場駐屯基地へ行ったのもわかっている」
    「……」
    「まあ、理由は訊かないさ。君にも言いたくないことはあるだろうし」
    「……すみません。でも、どうして私をすぐに連れ戻さなかったのですか?」
    「それは葛城さんから指示さ。誘拐などの危険がない限り、マナちゃんの好きなようにさせろってね」
    「どうして?」
    「俺には葛城さんの気持ちはよくわからない。実を言うと、今、マナちゃんを車に乗せているのは
    俺の独断でしていることなんだ」
    「えっ、じゃあ」
    「命令違反で減俸30%というところかな。はは、は、」
     と青葉さんは力無く笑った。
    「まあ、俺のことはいいさ。それよりマナちゃんはシンジ君やレイちゃんと一緒に戦うために走っていた
    んだろ?」
    「はい、」
    「なら、そのことをはっきりと葛城さんへ言うんだ。わかったかい?」
    「はい、」
     私はそう返事をすると、膝の上で両手をぎゅっと握りしめた。