霧島マナの日記 鋼鉄のガールフレンド

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○月24日その2

     私たちがネルフ本部へ戻った時、既に使徒との第一次接触が終わったあとだった。
     結果は、零号機が地上へ出た瞬間、使徒のビームにやられて敗北。
     そのため本部内ではネルフの職員がとっても大忙しで動いていた。
     そんな時、青葉さんのケータイに連絡が入り、短い通話をした後、
    「ファーストが意識を取り戻したそうだ。会いに行くか?」
     と、青葉さんが訊いてきた。
     その問いに、私はコクンとうなずいて返事をした。

     ネルフ本部に隣接する付属病院の一室。
     その中に入っていくと、ベッドの中にいた綾波さんのまぶたが開いた。
     一瞬、私は躊躇して足を止めたが、綾波さんの枕元へ行き、
    「……綾波さん」
     と小さく声をかけた。
     綾波さんは私を見て、まばたきを何回かした後、
    「あなたはきっと戻ってくると思っていた」
    「……えっ!?」
     綾波さんが私を待っていてくれたことに、胸がいっぱいになって、何も言えなくなった。
     しばし、私は俯いてくちびるを結んでいたが、小さな声で
    「ごめんなさい。逃げ出したりして」
    「……いい、」
     とだけ綾波さんは言うと、ベッドから起き上がって、スリッパを履いた。
    「綾波さん、どこへ行くの?」
    「……零号機に乗るわ。まだ使徒との戦いは終わってないもの」
    「でも、綾波さん、身体の方は?」
    「平気よ」
     と短く言ったが、その刹那、綾波さんの足がもつれて、私の方へ倒れ込んできた。
     私は綾波さんの身体を抱いて支えた。
     細く、軽い身体。
     こんなになってまで戦いに赴こうとする彼女。

    「離して」
     と言う綾波さんの身体を私はギュッと抱きしめた。
     そして、私は触れそうなくらい近づいている彼女の耳元で、
    「私が零号機で戦う」
     と告げた。

     ネルフ保安諜報部の人に連れられて、私は葛城さんの執務室へ入っていった。
     葛城さんはパソコンのモニターをにらめっこするように見つめていたが、くるっと椅子を回転さ
    せて私の方へ向き、
    「今、時間は1分でも惜しいの。話しは手短にして」
    「はい。私に零号機で戦わさせてください」
     葛城さんはしばし無言で私を見ていたが、
    「霧島さん、あなたはネルフから、いえ、エヴァのパイロットから逃げ出したのよ。それがどういう
    意味かわかっている? あなたにはエヴァに乗る資格はもう無いのよ」
    「お願いします。私をエヴァに乗せてください」
     と、私は葛城さんの前へ踏み出して訴えた。
    「私なんか足手まといにかもしれません。でも、一緒に戦いたいんです。みんなを守りたいんです。
    だから、お願いします。私をエヴァに乗らせてください」
    「……本気なのね?」
     と、葛城さんは静かに訊いてきた。
    「はい、」
    「私は霧島さん、あなたがエヴァのパイロットを降りたとしても仕方がないと思ったわ。むしろ、
    あなたをエヴァのパイロットのままにすべきではないと思った。どうしてか、わかる?」
    「私にやる気がないからですか?」
    「それもあるわ。でも、一番の理由はあなたが死を軽く考えていることよ。あなた、昨日の戦いで
    もう死んでもいいと思ったでしょ?」
    「……はい、」
    「そんな気持ちで戦ってもらっては困るの。エヴァに乗っては困るのよ」
    「……」

     葛城さんは私の両手を包むように握ると、
    「私たちの使命は世界をサードインパクトの脅威から守ること。でも、たとえ守ったとしても、
    あなた自身がその世界にいなくては何の意味も無いのよ。エヴァで負けるのは仕方がない
    かもしれない。だけど、そこで戦いは終わりじゃないの。まだ私たちが負けたわけじゃないのよ」
    「……」
    「だから、あなたは絶対に生き残りなさい。もう死んでもいいなんて考えては駄目よ」
     私は溢れそうになる涙をこらえながら、ただ
    「はい、」
     とだけ返事をした。
     葛城さんはニコッと微笑んでから、
    「フォースチルドレンへ零号機への搭乗を命じます。以下、詳しい作戦の指示を日向二尉から
    受けるように」
    「はい、」
     葛城さんはポンと私の肩を軽く叩くと、
    「行ってらっしゃい。そして、またここへ戻ってきなさい」
     と言った。
     その言葉に私はただ小さくうなずいた。

     ヤシマ作戦。
     高エネルギービームで攻撃してくる使徒に対して、エヴァによる超長距離からの直接攻撃。
     それは戦自研のポジトロンライフルにより使徒のATフィールドを中和せずに打破するという
    ものだった。そのために日本中の電力をライフルへ注ぎ込むらしい。
     砲撃手は初号機で、私は零号機で防御。これは私よりシンクロ率が高いシンジの方がより
    精度が高いオペレーションが可能だからだった。
     零号機が持つ盾は使徒のビームを17秒ほど耐えることことができる。でも、それ以上の時は……
    「僕たち、死ぬかもしれないね」
     満月の下、エヴァの横で待機している時に、シンジがそう言った。
     私は彼の方へ振り向き、
    「シンジ君は死なないわ。だって、私が守るんだもん」
    「でも、それじゃ、マナが……」

    「大丈夫よ」
     と私は言った。
    「だって、約束したから。必ず戻るって」
    「強いんだね。マナは、」
     と、膝を両手で抱えながらシンジは言った。
    「ううん。強くなんてないよ。今日だって、ネルフから逃げ出しちゃったし」
    「そんなの僕だって、いつ逃げ出したっておかしくない」
     私は体育座りをしている足のつま先を見ながら、
    「私、今まで何回も逃げ出しているの。前にいたところから仲間の子と一緒に逃げたこともある」
    「……」
    「私ね、シンジ君によく似た人を知っているんだ」
    「えっ、」
     少し驚いたように目を大きくさせてシンジ君は私を見た。
    「その人のこと、私、好きだった。大好きだった。でも、……」
    「……」
    「最後にその人から逃げ出しちゃったの。いろいろ理由はあったけど、その人をとっても傷つけ
    ちゃったことは確かだと思う。結局、まだその人にはごめんなさいって謝っていない。……もう
    永遠に謝ることはできなくなってしまったわ」
    「……その人、死んじゃったの?」
     私はしばし目を瞑ってシンジの顔を思い出してから、
    「ええ、」
     と答えた。
    「でも、私はもう逃げない。今いるみんなを守りたいから」
     私はすうっと立ち上がり、
    「シンジ君、」
    「ん?」
    「この戦いが終わったら、また綾波さんと一緒にご飯を食べよう。ねっ?」
    「う、うん」
     私はシンジに笑みを送ると、零号機のエントリープラグへと向かった。

     深夜0:00、ついにヤシマ作戦が開始された。
     二子山の峠道には、まるでF1開催のフジスピードウェイ連絡道路で渋滞するバスのように
    変電器を積んだ車両が居並んでいた。
     その変電器群へ日本中の電力が集まり加速器が運転を開始する。
     ポジトロンライフルを構える初号機。
     私の乗る零号機はシールドを持ち初号機の横で待機していた。
     プラグ内のモニターには作戦部の様子が映し出され、スピーカーからは状況を伝える声が
    絶え間なく流れている。
    ”あっ、綾波さん”
     作戦部に彼女がいる。もう大丈夫なのかなと、私は心の隅で思った。
    『第7次最終接続』
    『全エネルギー、ポジトロンライフルへ』
    『発射まであと10秒、9,8,7,6,』
     とカウントが進んだ時、
    『目標に高エネルギー反応!!』
    『3,2,2,1,0』
    『撃てっ!』
     と葛城さんの命令が下ったまさにその時、
    『碇君、待って』
     と綾波さんが叫んだ。そして、綾波さんは続けて、
    『霧島さん、初号機を守って』
    「えっ、はいっ」
     その瞬間、使徒の真正面から眩い閃光が走った。
     私は反射的に初号機の前へ出て盾を構える。
     間一髪のところで使徒のビームを防ぎ、その盾は激しい光と熱を生んだ。
     盾が溶けていく。
     もう駄目なの?
     でも、私は、私は負けられない。
     そう心の中で叫んだ時だった。

    『軌道の再計算完了』
    『撃て』
     初号機がライフルを撃ち、青白い光の束が一直線に使徒へ伸びていく。
     そして、零号機を襲う圧力と熱が消えた。
     遙か前方ではビームで撃ち抜かれた使徒がゆっくりと地上へ落ちていくところだった。
    「よかった。私たち、勝ったんだ」
     と呟き、私はエントリープラグを零号機からイジェクトさせた。
     使徒の攻撃により煮えたぎるような熱さを持ったLCLから出て、夜風に身体をあてる。
     火照ったからだから風が熱を取り去ってくれていた。
     すると、初号機がそばに来て、そこからシンジが出てきた。
     私が彼のところへ行くと、シンジは泣きじゃくって、
    「マナ、……僕、僕は、」
    「シンジ君、昨日とは逆だね」
     と、微笑みながら私は言った。
    「昨日は碇君が私を守ってくれて、今日は私が碇君を守ることができた。これからもみんなで
    一緒に戦っていこう。そうすれば、なんとかなるよ」
    「う、うん、」
     私はシンジの手を引っ張るようにして、
    「みんなのところへ帰ろう」
     と言ったが、アレっとした感じで足がふらついてしまった。
    「マナ?」
    「あはっ、おなかが空きすぎたみたい」
    「マナ、帰ってご飯を食べよう。きっと美味しいよ」
    「うん。でも、こんなに夜中に食べたら太っちゃうね」
     その言葉にシンジと私は声を出して笑った。
     そして、綾波さんもここにいたら一緒に笑ったかな?と、私はそんなことを思っていた。

    ○月24日
    〜中略
     いろいろあったけど、もう少し私は頑張ってみようと思います。
     でも、シンジ君や綾波さんに本当のことを言えないのかなりつらいです。
     私はこれからどうすればいいの。