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そんなこんなで、みんなでミスドにと〜ちゃ〜く。 私たちはそれぞれ好きなドーナツを取ってから窓際の席に腰をかけた。 席順はこんな感じ。 私 レイちゃん シンジ君 窓----------------------------------- 相田君 ヒカリちゃん 鈴原君 もちろん、この席順を決めたのは私で〜す。 と、まあ、そわそわと嬉し恥ずかしそうにしているヒカリちゃんを盗み見しながら、 私はオールドファッションドーナツを大きく頬張った。 サクッともモヤッともしたような感触のあと、口の中に甘さがぱーっと広がった。 ホント、おいしい。 ベーシック中のベーシック中、さすがドーナツの王様よね。 あっという間に全部おなかの中に入りきると、私は次にチョコレートドーナツを口にした。 これもおいし〜い。 今、すっごくしあわせ。 隣にいるレイちゃんに、 「おいしいね」 と言ったら、彼女はドーナツをかじりながら小さく肯いた。 レイちゃんが食べているのは”抹茶練乳あずきリング”。その名の通り、抹茶のリングドーナ ツの中に練乳を絡めた粒あんがみっちりと入っているものなのだ。 ううっ、想像しただけでも口の中が甘くなってきた。 そんな超あま〜いドーナツをレイちゃんは無表情だけど、どこか美味しそうな顔で食べている。 私はちょっとお口直しにアイスレモンティーのストローにくちびるをつけた。 と、斜め前にいるヒカリちゃんの方を見たら、鈴原君とドーナツを半分に分けながら食べていた。 けっこうヒカリちゃんって、積極的なんだ。 鈴原君の汚したあとを拭き取ったりしているし、どちらかというとお母さんという感じかも。 私はふふっと軽く微笑んでから、
「なんだか、私たちってダブルデートしているみたいだね。あっ、これってトリプル デートって言うのかな?」 と、なにげなく私が言ったら、 「どうして私が鈴原と!「なんでワイがイインチョと!!」」 と、二人が私の方へ身を乗り出しながら大声で言ってきた。 でも、そんな風にハモっている二人の様子がおかしくて、私は笑いをこらえながら、 「ぷっ、私はヒカリちゃんと鈴原君のことなんて、これっぽっちも言っていないんだけど」 「で、でも、この並びだと私と鈴原のことと思っちゃうでしょ?」 「そや、イインチョの言うとおりやで。ワイなんか、この組み合わせやとトイメンにいるシンジか イインチョしかいないやんか」 「え〜、シンジ君じゃ鈴原君は不満なの〜?」 「そ、そんな不潔なことは駄目よ、鈴原」 「バカ言うんちゃうで。ワイかて、男と付き合うような趣味なんか無い。それやったらイインチョの 方がまだマシや」 「……まだ、マシ?」 と、私はとっても小さく呟いた。 また、なんとも微妙な言い回しよね。ヒカリちゃんも喜んでいいのか怒っていいのか、ちょっと 困ったような表情をしているし。 私はちょっと叩いてやろうと鈴原君の方へ身を乗り出そうとした時、相田君がシンジ君を指差し ながら、 「この席順だと、碇と綾波だろ。それに委員長とトウジ。……と言うことは」 と言って、ひらめいたとでもいう感じにポンと手を叩き、 「わかった。霧島。おまえ、俺のことが好きなのか?」 と言った瞬間、その場にいた全員が 「「「それ、違うから」」」 とツッコミを入れていた。 なんと、レイちゃんまでもが呟くようにつっこんでいたのだ。 相田君はそのショックに少し涙目になりながら、 「だ、だってさ、霧島の前横にいるのは俺だけだし、トリプルデートって言うから、ペアになるのは 俺しかいないじゃんかよー」
相田君の隣にいたヒカリちゃんが、彼の肩をポンと叩いて、 「冷静に考えればわかるでしょ。そんなことはありえないって」 「で、でも、わかんないじゃないか。俺のかっこよさに気づいたかもしれないし」 私は彼を慰めるような目で、 「将来、相田君を好きになってくれる子が見つかるといいね」 と言うと、彼はコーラの入ったグラスの中の氷をストローでかき混ぜながら、 「どうせ、俺なんか」 とぶつぶつ呟きながらいじけ始めた。 そんな相田君の様子がちょっとかわいいかもと思ったような思わないような、 結局はどうでもいいことなので私は3つめのカスタード・ドーナツを口にした。 やっぱりドーナツは美味しくて、しあわせ〜な気持ちになりながら窓の外に視線を向けた。 この店の向かい側はゲームセンターになっていて、表にあるUFOキャッチャーを熱心にし ている少女の姿が目に留まった。 後ろ姿だけど、キラキラ光るような長い金髪に冴えるようなレモン色のワンピース。 すっごく目立つ。 というか、あの服のセンスは少しどうかと思う。 まあ、一目で誰かはわかったけど。 私はレイちゃんにだけ聞こえるような小さい声で、 「窓の外を見て。あれ、セカンドチルドレンの惣流・アスカさんよね?」 と言った瞬間、ロボットアームからぬいぐるみの落っこちるのが見えた。 彼女はガンとゲーム機を叩くと、次に足で蹴り始めた。 その時にちらっと見えた横顔はやっぱりアスカさんで、 「そのようね」 と、レイちゃんもうなずいた。 昨日のミーティングの時に、海洋上で使徒と戦う弐号機の映像を私たちは見た。 そこでの弐号機の動きはすごくて、とても私には真似できない。 パイロットとして尊敬している部分もあるアスカさんだけど、普段の様子はアレだ。それは今 もUFOキャッチャーゲーム機をガンガン蹴り飛ばしているアレで。 あれっ、なんかヤンキーな人たちとケンカを始めた。
「レイちゃん。アスカさん、ケンカしているよ」 「そのようね、」 「助けに行った方がいいよね?」 「心配はいらないわ。どこか近くに保安部の人たちがいるもの」 「でも、……」 私はシンジ君に声をかけて、 「ねえ、シンジ君。あそこで絡まれている女の子がいるんだけど、助けに行こう」 と外を指差したが、そこではプロレスさながらの大乱闘状態になっていた。 「えっ、行くの?」 「うん。鈴原君と相田君もお願い」 「ほな、わかった。シンジ、行くで」 「ふふっ、日頃の訓練の成果を見せる時が来たか」 と、相田君はなんか不気味に笑っているし。 でも、シンジ君は明らかに嫌そうな顔で、仕方なくといった感じに出て行った。 そう言えば、シンジ君はまだアスカさんの顔を知らないのよね。私とレイちゃんはネルフにい るのが長いから、彼女の写真くらい見たことあるけど。 と、3人は彼女の加勢に入ったけど、これが全くと言っていいほど戦力にならなかった。 まあ、シンジ君がケンカ強いというのも似合わないけど。 私たちも外に出て応援していたけど、孤軍奮闘しているアスカさんの背後にヤンキーさんが 襲いかかろうとしていた。 私は思わず大声で、 「アスカさん、危ない!!」 「えっ、」 と、彼女が振り向いた瞬間、その顔へヤンキーさんのパンチが飛んでいったけど、 「うわっ、」 と、とっさにシンジ君が割り込んでいき、彼女の顔の代わりにパンチを盛大に受けていた。 シンジ君は倒れ込んじゃったけど、女の子をかばう姿にちょっと私はうるっと来てしまった。 アスカさんはシンジ君のそばに駆け寄り、 「アンタ、大丈夫なの?」 「な、なんとか」
と、シンジ君は左頬を手で押さえながら答えた。アスカさんは殴った相手をキッと睨むと、 「アンタ、やってくれたわね」 と言って、そばにあったパイプ椅子を持ち上げ、ガシガシと相手に殴りつけていた。 なんか、もう収拾がつかないような感じで、隣にいるヒカリちゃんは泣きそうになっている。 すると、レイちゃんはポケットからケータイを取りだして、どこかへ連絡を取り始めた。 やがてまたケータイをしまうと、 「これで大丈夫よ」 と、レイちゃんは私に言った。 しばらくすると、パトカーのサイレンが聞こえてきて、って、警察に電話したの? なんか、みんな大慌てで逃げ始めて、私たちもつられて逃げてしまった。 しばらく走ったあと、気づいたら私たちチルドレン4人だけになっていて、ヒカリちゃんたちとは はぐれてしまっていた。 みんな、はずんだ息を整えてから、アスカさんが私の方へ向いて、 「アンタ、アタシの名前を呼んだでしょ? どうして知ってんのよ?」 「どうしてかって言うと、」 私はレイちゃんやシンジ君の方を指して、 「私たち、ネルフのチルドレンだからです」 「えっ、うそ!?」 「アスカさんも私たちの写真くらい見たことあると思うけど」 「あ、そう言えば、この青い髪、ファーストね。で、アンタがフォース」 「ねえ、マナ。彼女のことを知っているの?」 「うん。この人がエヴァンゲリオン弐号機パイロットのアスカさんだよ」 その言葉にシンジは驚いたように大きく目を見開いて、アスカさんは彼を真っ直ぐに指差して、 「じゃあ、こいつがサードなの?」 「そうよ。サードチルドレン・碇シンジ君」 「ふ〜ん、こいつがね。……あ、そうだ。さっきはかばってくれてありがとう。じゃあ、またね」 と言って、アスカさんはダッシュでどこかに行ってしまった。 なんだか、あっけにとられた私たちは彼女の後ろ姿をただ呆然と見ていた。 ×月15日 〜中略〜 加持さん、ドイツ土産に缶ビールは止めてください。って、これ、葛城さんのお土産じゃないんですか?