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朝、学校へはお隣さん同士ということもあって、シンジ君とアスカさんと3人で登校している。 集まる時、いつもシンジ君が最後で、ちょっとお寝坊さんみたい。 そんなわけでだいたい朝のSHRが始まる少し前くらいに教室へ着くけど、それでも走ったりす ることもなく、おしゃべりしながら歩いている。 と言っても、女の子同士ということでほとんどは私とアスカさんが他愛のないおしゃべりをして いて、シンジ君が私たちの後ろについてくるという感じ。 今朝もテレビの話とか噂話とかしていたんだけど、 「ところでさ、」 と、アスカさんが唐突に訊いてきた。 「ん?」 「アンタ、どうして本部にいんのよ?」 「どういうこと?」 「だって、そうでしょ。アンタの乗るエヴァが無いのに本部にいたってしょうがないじゃない」 「んー、先に本部で訓練をするようにっていう命令だけど」 「そこがおかしいのよ。まあ、プロトタイプの零号機や初号機は別として、エヴァっていうのは本来、 パイロットに合わせてチューニングしなちゃ動かせないものなのよ。だから、アタシなんか弐号機 専属パイロットと言われてるわけだし」 「そうだったんだ?」 と、シンジ君が言った。 「そうなのよ。アタシやファーストなんて、もう10年くらいエヴァの開発に関わっていて、やっと最近、 ATフィールドを発生できるようになったのよ。なのに、アンタ、こんなとこにいていいわけ? マナの 乗る四号機って、弐号機と同じ制式タイプなんでしょ?」 「そうだけど、いいと思うよ。だって、命令だし」 「そんなんで納得できるなんて、マナってホントお気軽よね」 と、アスカさんは少し呆れたように言った。 「そうかなぁ? あはは、」 「もしかすると、」 アスカさんは僅かに眉間にしわを寄せて、 「四号機っていうのは、噂の量産機のプロトタイプかもしれないわね」 と言った。
「量産機?」 「そうよ。アタシも噂でしか聞いたことがないからよくわかんないんだけど、どうも 無人でコントロールできるという話よ」 「へー、そうなんだ。じゃあ、将来は僕たちがエヴァに乗らなくてもよくなるのかな?」 と、シンジ君が言った。 「ま、そうなったら、アタシたちはお役ご免ってところかしらね。悔しいけど、エヴァのデータ だけ取られて使い捨てみたいな」 「僕は戦わなくてすむなら、その方がいいけど」 「あ、私もそうかな」 「はん、ホント、アンタたちはお気軽ね。アタシはそんなの嫌よ」 と言ってから、アスカさんはしばらく考え込むように黙り込んでいた。 それから学校まで半分のところになった時、ヒカリちゃんと一緒になった。 ヒカリちゃんは学級委員長ということもあって前は早めに教室へ行っていたけど、アスカさ んが来てからは私たちに時間を合わせてくれていた。 やっぱり今回もアスカさんとヒカリちゃんはすぐに仲良くなって、 「おっはよー、ヒカリ」 「アスカ、おはよう。マナ、碇君、おはよう」 「「おはよう」」 と、私とシンジ君も挨拶を返す。 それからは私たち女の子三人でおしゃべりが続いたけど、ヒカリちゃんが思い出したように、 「あっ、先生から聞いたんだけど、今日、転校生が来るんだって」 「えっ、転校生?」 「そう。でも、めずらしいよね。使徒が来てから疎開が始まって、みんないなくなっていってるのに、 転校してくるなんて」 「またネルフ絡みなんじゃない」 と、アスカさんが言った。 「こんな物騒な街にわざわざ来るなんて、親とかがネルフ関係者に決まっているじゃない」 「そうなのかなぁ?」 「アスカの言う通りかもしれない。でも、そんなこと関係なく仲良くなれるといいね」 とヒカリちゃんが言った後、私たちの後ろにいたシンジ君が、 「どんなこかな? かわいいコだったらいいな」 と呟くように言った。
その瞬間、私たち三人はパタッと歩く足を止めて、そろって後ろへ振り返り、 「シンジ、今なんて言った?」 と、アスカさんが訊いた。 「えっ、どんな子かなって」 「その後よ」 「か、かわいいコだといいな…かな?」 「ほほー、アタシたちがいるっていうのに、そんなこと言う。その口で」 「えっ、僕、なんかまずいこと言った?」 「言ってないわよ、ちっともね。でも、アンタのその言い方、嫌らしいのよ」 碇君はちょっとビックリしたみたいで、私やヒカリちゃんへ目で訊いてきた。 「う〜ん、あまり女の子の前で言うことではないかも。わたしは別にいいけど、ねえ?」 と、ヒカリちゃんは私に意味ありげな目線を送った。 「えっ、私? 私も別に……。それ言うならアスカさんかな?」 と、今度は私がアスカさんへ視線を送った。 「アタシぃ〜? あ、アタシも関係ないわよ。別にシンジがなに考えていようがどうでもいいし」 「そうなんだ?」 「そ、そうよ。ただ単に、男って馬鹿でスケベだと思っただけよ」 「ちょっと言ってみただけなのに酷いよ」 と、シンジ君は少し涙目になって言った。 「まあ、アタシたちよりかわいいコなんて、めったやたらにいやしないんだから、過度な期待は しないことね」 とアスカさんは言ったけど、アタシたちというと私とヒカリちゃんも入るのかなと、ちょとくすぐった いような気分になった。 そして、朝のSHRが始まり、担任の先生の隣に私たちと違う制服を着た少女が立っていた。 「今日からこのクラスの一員となった山岸マユミさんです。みなさん、仲良くしてあげてください」 と、もうすぐ定年になる先生の紹介が終わった後、マユミさんはペコッと頭を下げて、 「山岸マユミです。みなさん、よろしくお願いします」 と挨拶をした。 それから先生は教室の中を見回して、私へ視線を向けると、 「霧島さんの前の席が空いてますね。では、山岸さんの席はそこにしましょう」 と言った。
そんなふうに先生に促されて山岸さんは席の方へ行くと、両隣の男子へ挨拶をした。 それから私の方へ振り向き、 「山岸マユミです。これからよろしくおねがいします」 と、マユミちゃんはちょこんとお辞儀をした。 私は軽く微笑んで、 「私、マナ。霧島マナよ。こちらこそよろしくね」 「あ、はい」 「それと、何か困ったことがあったら言ってね。何でもするから」 「ありがとうございます」 と、マユミちゃんは恥ずかしそうにハニカミながら言った。 それから授業が始まったんだけど、マユミちゃんはすっごい勉強ができるみたいで、先生からの 質問には何でも答えていた。 でも、私が気になっていたのは、マユミちゃんの髪だった。 すぐ目の前にある彼女の長い黒髪は枝毛なんか無くて、キューティクルいっぱいで天使の輪も 見えていた。 いいなぁと、憧れちゃうなぁと私は思う。 私なんか栗色のくせっ毛だし、そんなストレートの髪なんてパーマでもしないとならないし。 そんなふうに思っていたら、ちょっと触ってみたくなって、右手ですくうように彼女の髪にふれた。 さらっとした髪。 と思った瞬間、 「キャッ、」 とマユミちゃんがかわいい悲鳴を上げた。 授業中、先生の声だけが聞こえていた静かな空間に突如あがった悲鳴。 当然だけど、みんなの目がマユミちゃんに集まって、彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして 俯いてしまった。 私はまずいと思って、とっさに立ち上がり頭の後ろをかきながら、 「あはは、は…、マユミちゃんごめん。いたずらしちゃって」 「霧島っ、おまえなぁ。少しはまじめに授業をだなぁ」 「はい、すいません。以後、気をつけます。てへっ」 と小さく舌を出し、みんなの笑いを買ってから椅子に座った。
そして、マユミちゃんへ小声で、 「ホント、ごめんね。驚かすつもりはなかったのよ。ただ、マユミちゃんの髪がキレイだったから、 ちょっと触れてみたくなって」 「……髪ですか?」 と、マユミちゃんは私へ振り返った。 「うん、」 「私、今までそんなこと言われたことない」 「そう? とってもキレイだと思うけど」 と、今度はさっきとは違った種類の恥ずかしさでマユミちゃんは頬を染めたが、 「こらっ! 霧島、山岸、おしゃべりは休み時間にしろ!」 と、先生の注意が落っこちた。 私はマユミちゃんにくすっと笑いかけると、彼女も小さく笑い返した。 そんなこんなでお昼休み。 私たちはいつもの四人で集まって(私、ヒカリちゃん、レイちゃん、アスカさん)、お弁当を食べるこ とになっていたけど、 「ねえ、マユミちゃん」 「はい?」 「いっしょにお弁当たべよ? あっちで、みんな待ってるから」 と言って、ヒカリちゃんの席の方へ私は目を向けた。 そこではもうアスカさんが購買部で買ったサンドイッチとかを広げていて、レイちゃんも買い物から ちょうど戻ってきていた。 そして、ヒカリちゃんは私とマユミちゃんに気が付いたのか大きく手を振って、 「マナ〜、マユミちゃ〜ん、こっちよー」 と声をかけてきた。 私はマユミちゃんへ視線を合わせて、 「行こうっ」 「は、はい」 また学校が楽しくなりそう。そんな予感がした午後のひとときだった。 △月11日 〜中略〜 今度のJA記念式典が楽しみです。